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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)125号 判決 1969年8月08日

原告 滝森ミネ

被告 東京都固定資産評価審査委員会

右代表者委員長 中西寅雄

右指定代理人東京都事務吏員 岡本正

<ほか一名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者の求める裁判

(原告)

一、被告が、原告に対し昭和四二年五月一七日付で別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)の固定資産税の課税標準についてなした審査決定中、金四四万六、四〇〇円を超える部分を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨

第二、請求原因

一、本件建物は、原告の所有物件であるが、訴外東京都知事は、昭和四二年二月二八日、右建物について、昭和四二年度固定資産の価格を八九万二、〇〇〇円と決定し、固定資産課税台帳に登録した。

二、原告は、右登録価格を不服として、昭和四二年三月一七日付で被告に対し審査の申出をしたところ、被告は、訴外東京都知事の決定した評価格(八九万二、〇〇〇円)を七三万八、四〇〇円と減額修正することに決定し、この旨を、同年五月一七日付で原告に通知した。

三、しかしながら、被告の右決定は左の理由により違法である。

(一)  本件建物は、昭和三八年から翌年にかけて原告とその家族(家業は大工)が、共同で建築したものであり、材料は、原告方で従前より無償で集めていた家屋の古解体材を用い、新材料は天井板と畳一二枚だけであった。従って、建築費用は皆無に近く、せいぜい一坪当り約二万円であるから、昭和四二年度の評価格は四四万六、四〇〇円とするのが相当である。

(二)  また、被告は、本件建物の現況床面積が九二・五六平方メートル(二八坪)であるのに、一一一・六三平方メートル(三三・七七坪)として評価していること、また、原告が、昭和四一年七月本件建物の階下一三・二二平方メートル(四坪)の造作を取りこわして、土間を薄いコンクリートにしたこと、本件建物の一階には襖が一枚もなく、二階の洋間は何もついていないのに、これらを無視して本件建物を評価していることはいずれも不当である。

よって、原告は本訴請求におよぶ次第である。

第三、被告の答弁ならびに主張

(請求原因に関する答弁)

一、請求原因第一、二項を認める。

二、同第三項(一)のうち、原告の家業が大工である点を除き、すべて争う。

三、同項(二)のうち、被告が、本件建物の現況床面積を一一一・六三平方メートル(三三・七七坪)と認定したことは認めるが、その余の点は争う。

(被告の主張)

一、訴外東京都知事は、地方税法(以下単に「法」という。)第四〇三条の規定にもとづき固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号―以下単に「評価基準」という。)により、昭和四二年二月二八日本件建物について昭和四二年度固定資産の価格を八九万二、〇〇〇円と決定したが、被告は、四月二八日に委員会を開き、原告の審査申出書とこれに対する知事の答弁書、実地調査調書および口頭審査調書にもとづき審議した結果、原告の審査申出の理由とされた建築材料に古材を使用している部分が認められたので、その古材の使用の程度等を考慮して訴外都知事の決定した評価格(八九万二、〇〇〇円)を七三万八、四〇〇円と減額修正することに決定し、この旨を同年五月一七日付で訴外都知事および原告にそれぞれ通知した。

なお、実地調査の際、登録現況床面積は一一一・六三平方メートル(三三・七七坪)であることも判明したので、被告は右通知に際し、その旨付記した。

二、(1) ところで、建物の評価については、木造家屋及び木造家屋以外の家屋の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、その評点数に評点一点当りの価額を乗じて、各個の家屋の価額を求めるのであって、その評点数を求めるには評価基準第二章家屋、第二節木造家屋、一、評点数の算出方法により、再建築費評点数に木造家屋経年減点補正率を乗じて算出する方法を採っている。

然して、右再建築費評点数とは、木造家屋の構造の区分に応じた「木造家屋評点基準表」により、各部分別に標準評点を求め、これに、補正項目について定められている補正係数を乗じて得た数値に、更に、計数単位数を乗じて、その結果得た部分別再建築費評点数を合計して求め、その際の計算単位としては、各階ごとに壁その他区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による床面積を用いるものである。

また、右木造家屋経年減点補正率とは、通常の維持管理を行なうものとした場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定めたものであって、木造家屋の構造区分及びその単位床面積当り再建築費評点数の区分に従い「木造家屋経年減点補正率基準表」により求めるものである。

(2) そこで、右算定方法によって、本件建物についての評価額を算定すると、単位当り再建築費評点数計算書に示すとおり、単位当り再建築費評点数三二、二〇〇に経年減点補正率〇、七八を乗じ、更に床面積二八坪を乗じて得た値に一点当り評価額一・〇五円を乗じた結果、昭和四二年五月一七日付通知の審査決定通知書に表示した評価額七三万八、四〇〇円を得たのである。

(注) 1.単位当り再建築費評点数は、評点項目(古材等の使用を考慮した評点項目)別の標準評点数を、補正項目別に、補正係数(古材等を施行の程度において考慮した係数)により補正して部分別評点数を求め、その部分別評点数を合計して得た数値(三二、二四二≒三二、二〇〇)である。

2.経年減点補正率は木造家屋経年減点補正率表(専用住宅共同住宅寄宿舎及び併用住宅用建物)のうち、三〇、〇〇〇点以上五〇、〇〇〇点未満の欄で経過年数四年の欄の補正率(〇・七八)である。

三、なお、原告は、本件建物の建築に当っては、贈与された古材を用い、かつ建築費用も皆無に等しいのであるから、評価額の決定において当然考慮すべきである旨を主張するもののようであるが、もともと、固定資産税は、財産税と解され、固定資産そのものの現状に具体化されている利用価値に着眼し、固定資産の所有自体に担税力を認めるものとするものであって、たとえ、収益的財産税であると考えるものであるとしても、固定資産の所有者は固定資産を使用し収益する価値に着眼して所有するものであるから、再建築価格に損耗度による減価および利用価値による増減価等を行ない、再取得価格に重点を置くべきものである。このことは、課税標準額は適正な時価による(法第三四一条五号)べきであり、算定の時期は基準年度に係る賦課期日における価格(法第三四九条)とされ、処分価格ではなく、その現況において再取得する場合の価格と解されている(同趣旨岐阜地裁昭和二八年一二月七日判決、京都地裁昭和三一年五月一七日判決)ことからもいえるのである。従って、この点についての原告の右主張は認められないのである。

四、また、原告は、昭和四一年七月に階下一三・二二平方メートル(四坪)をとりこわしたのに、本件建物の評価に際し、被告が、これを何ら考慮しないのは不当であると主張しているが、これは被告が昭和四二年三月二二日付第九号で受付けた最初の審査申出書の申出理由であって、被告は当然原告の右申出を考慮して、昭和四二年度の家屋の価格(昭和四二年一月一日を基準とする)を決定したのである。

よって、被告の本件審査決定には何らの瑕疵もないから、原告の本訴請求は理由がなく、棄却されなければならない。

第四、証拠≪省略≫

理由

一、原告が本件建物の所有者であること、訴外東京都知事が、昭和四二年二月二八日、右建物について、昭和四二年度固定資産税の課税標準である価格を八九万二、〇〇〇円と決定し、固定資産課税台帳に登録したこと、原告は、右登録価格を不服として、昭和四二年三月一七日付で被告に対し審査の申出をしたところ、被告は、訴外東京都知事の決定した評価格(八九万、二、〇〇〇円)を七三万八、四〇〇円と減額修正することに決定し、この旨を同年五月一七日付で原告に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、被告の決定した本件建物の評価格が適正な時価に相当するか否かにつき以下検討する。

東京都知事が、固定資産である本件建物の価格を決定するには、自治大臣が定め、告示した固定資産評価基準によらなければならない(地方税法第七三四条第一項、第七三七条、第四〇三条、第三八八条)ところ、右評価基準によれば、建物の評価については次のとおりの方法で行われることが認められる。

(一)  家屋の評価は、木造家屋及び木造家屋以外の家屋の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、この評点数に評点一点当りの価額を乗じて各個の価額を求める方法によること(評価基準第二章家屋、第一節通則、一、家屋の評価)。

(二)  右木造家屋の評点数は、当該家屋の再建築費評点数に木造家屋経年減点補正率を乗じて算出するものとすること(右同章第二節木造家屋、一、評点数の算出方法)。

(三)  右再建築費評点数は、当該木造家屋の構造の区分に応じ、当該木造家屋について適用すべき木造家屋評点基準表によって求めるものとすること(右同章第二節木造家屋、二、再建築費評点数の算出方法)。

すなわち、

(1)  先ず、基準表の各部分別(屋根、基礎、外壁等)毎に、評点項目を定め、当該項目に相応する標準評点数を求める。

(2)  一つの部分に二以上の評点項目に該当する工事が施行されているときは、当該各評点項目に該当する工事の施行量の当該部分の工事の施工量に占める割合によって、平均標準評点数を求める。

(3)  右により求めた標準評点数に、補正項目について定められている補正係数を乗じて得た数値に、その計算単位の数値を乗じて各部分別に再建築費評点数を求める。

(4)  右計算単位は、各階ごとに壁その他区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による床面積を用いる。

(5)  一つの部分に該当する補正項目が、二以上ある場合の補正係数は、その該当する補正係数を連乗したものによる。

(6)  各部分別の再建築費評点数を合計して当該家屋の再建築費評点数を求める。

(四)  木造家屋経年減点補正率は、「木造家屋経年減点補正率基準表」によって求めるものとすること(第二節木造家屋、四、損耗の状況による減点補正率の算出方法)。

三、右方法により、先ず本件建物の再建築費評点数を求めるに、≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができる。

本件建物は、トタン葺で、外壁、柱は古材を使用しておりその程度は中、または中の下に相当し、基礎、内壁、天井、床、造作等もほぼ右と同程度であり、その他建具、建築設備等についても中もしくは中の下の程度である。而して、右評価を前提として各部分別の評点項目について標準評点数を採択し、これに対しそれぞれの補正項目についての補正係数を乗じた数値を求め、これを合算すると、三二、二四二となる。

四、≪証拠省略≫によると、本件建物についての被告が本件審査決定をなした当時の経年減点補正率は〇・七八であり、評点数一点当りの価額は、一・〇五円であることを認めることができる。

五、以上により求めた単位当り再建築費評点数、経年減点補正率、一点当りの価額ならびに本件家屋の床面積二八坪(本件建物の評価に当り、床面積を二八坪として計算することについては当事者間に争いがない)から、本件建物の評価格を算出すると(但し、単位当り再建築費評点数の一〇〇以下の数値は切捨てる)、

{(32,200×0.78)×28}×1.05

の数式により、七三万八、四〇〇円となり、被告主張の評価格と一致することが認められる。

而して、以上の認定資料となった木造家屋評点基準表、経年減点補正率基準表の各数値、ならびに再建築費評点一点当りの価額を当該行政庁が一、〇五と決定したことについては何ら不合理の点は認められないし、この他、以上の認定を左右するに足りる証拠はないから、被告決定の本件建物についての評価格は結局相当というべきである。

六、(一) 原告は、本件家屋は、大工を業とする原告の家族が自ら建築し、かつ、無償の材料を利用したから、建築費用は低く、従って、その評価格は四四万六、四〇〇円とするのが相当であると主張する。しかしながら、建物に対する固定資産税は、人が、財産としての建物を所有しているという事実に担税力を見出して課税するものであって、地方税法が固定資産の基準年度に係る賦課期日における価格(時価)を課税標準とする建前をとっている(地方税法第三四九条)のは、右時点における固定資産のもつ客観的な資産価値の大小によってその担税力を把握するという考え方に基づくものということができる。そうだとすると、固定資産の価格を評価するのに、その資産取得の経過、方法等建物を取得するうえでの建物所有者個人の主観的事情を斟酌するのはむしろあやまりといわなければならない。また、原告は、本件建物の評価格は、四四万六、四〇〇円が相当であると主張するが、その合理的理由ないし証拠は全くない。よって、原告の右主張は理由がない。

(二) 原告は、さらに、被告が本件建物の床面積を一一一・六三平方メートル(三三・七七坪)として評価したのは違法であると主張するが、前記のとおり、被告は、本件建物の床面積を原告主張のとおり九二・五六平方メートル(二八坪)として評価算出しているのであって、≪証拠省略≫によると、ただ被告において実測の結果、本件建物の現況床面積が一一一・六三平方メートル(三三・七七坪)と判明したので、原告に対する本件審査決定の通知書に注意的にその旨記載したにすぎないものと認められるのであって、この点についても、原告の主張は何ら理由がないといわざるを得ない。また本件建物の一部の造作がとりこわされたこと、また一階には襖がないのにも拘らず、被告が、これらの点を無視して評価したのは違法であると原告は主張するけれども、前記認定の評価格の算出に際して、これらの事情はすべて考慮の対象となっていることが認められるのであるから、右評価格を減額すべき特段の証拠がない以上、原告の右主張は理由がないというべきである。

よって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

七、以上の理由により、被告の本件審査決定には瑕疵はないから、原告の本訴請求は理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 緒方節郎 裁判官 小木曽競 山下薫)

<以下省略>

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